人は、良くも悪くも感情的な生き物で、人間関係のあるところ、どうしても人に対して、好き嫌いが出てきてしまいます。
そして、そうしたある人がある人へ抱く感情はコミュニケーション上でも複雑で微妙な変化を与えてきます。
例えば、すでに人間関係ができあがっているような職場や学校といったところに途中から転職や転校で入っていく場合、そこの人間関係がどうなっているのかを把握することは非常に重要です。
早速、例を挙げてみましょう。
Aさんは、10年以上勤務した企業を離れ、現在のT社へ転職。前職では、職場のスタッフの人数はせいぜい20人程度だったのに対し、現在のT社では80~100人規模とかなり増えました。
そこで、Aさんは、上司や役員の方を含め、まずは日常的な挨拶などを含め、積極的にコミュニケーションを重ねていき、まずまず順調に人間関係を築いていきますが、どうも役職者以外の人たちとのコミュニケーションにはどこか壁を感じていました。
Aさんは、なぜ、役職者以外の人との距離が縮まらないかを考えてみました。
○入社してまだ間もない
○役職者が現場の人に好ましく思われていない
○役職者以外の人間関係がギクシャクしている。
そして、丁寧かつ丹念に思い至ったのは、最後の現場レベルでのギクシャクした人間関係でした。
Aさんは、なるべくフラットでいようとして、誰かの味方をするような発言は控え、そして、誰かの印象を尋ねられたときもなるべく、慎重に言葉を選び、ネガティブに受け取られるような発言をしないように心がけてきました。
しかし、そういった言動が現場レベルのスタッフには、「八方美人」「表面的」と映っていたようで、本音や軽口を叩くような関係に踏み込めなかったのです。
そこで、Aさんは意識して聞き役に回ることにより、誰と誰が仲がよく、そして誰と誰が仲が良くないかを慎重に探っていきました。そしてそうした人間関係を把握することにより、現場とのコミュニケーションの突破口を探っていきました。
そこで、誰かの発言のフォローをしたり、誰かのネガティブな話題になった際は、できるだけ、自分だけの意見という風に持っていかずに、「まだ入社して間もない」という前提のことわりを入れた上で、確かに「○○さんが言うように△△さんにはそういったふしがありますね、□□さんも同様の発言をしてましたし」と他人を巻き込むような形で発言をしていきました。
上のような方法は、人間関係の把握を間違えてしまうと、非常に危うい立場になりかねない方法ですが、人間関係の壁を突破するには、有効な方法の一つです。
ここでのポイントは、
○人は同調してくれる人が多ければ多いほど、安心し、より関係を強固にしていくこと
○影響力のある他人の発言の力を借りること
○人間関係を考慮し、慎重に言葉を選ぶこと
です。
順番に見ていきましょう。
○人は同調してくれる人が多ければ多いほど、安心し、より関係を強固にしていくこと
どんなにハートの強い人でも、自分の主張や意見に賛同者がいなければ、心もとないものです。しかし、自分の主張や意見に多くの賛同者や応援してくれる人がいると、勇気や自分の意見の正当性へ自信を深めていきます。
実際には、他人に自主的な同調や同意を求めていくというのは簡単ではありません。それは何も小さな人間関係だけでなく、政治や大企業といった場所でも同じです。
人間社会は時として、数の論理で話が動くことが決して少なくありません。それは、署名活動や選挙がまさにそれを裏付けています。
つまり、同調する人を自分以外にも見せることで、同調のパワーを強化します。
○影響力がある人の発言力を借りる
これは、道義的に判断が分かれるところでもあるのですが、同調を求める人が好意的に見ているであろう人や、フラットに思っているであろう人で役職者の方の発言を引き合いに出すのは効果的です。
特に現場レベルの人となりますと、役職者などの発言はやはり影響力が大きく、発言の重みがあります。
ただ、そういった影響力のある人の発言力を借りすぎると、場合によっては、「虎の威を借る狐」という風に取られかねませんので、ほどほどにする必要もあります。
○人間関係を考慮し、慎重に言葉を選ぶこと
これが一番、難しいところですが、人間関係を見極めましょう。単純に好き嫌いというだけでももちろん情報としては、有益なのですが、それに加えて、なぜ、そうなってしまったのかを考慮するだけでもかなり違います。
原因とは、まさにその人間関係のひずみの理由であり、当人同士の価値観や本質がどこにあるかを判断するのに貴重な材料になるからです。
利己的な考え方が原因なのか、それとも、仕事の出来不出来なのか、出世しか頭にない欲深さなのか、当サイトでも何度か触れていますが、そういった情報は人と接する際の重要な情報に他なりません。
他人への同調と他人の発言力、そして人間関係をつぶさに観察し、本質を探っていくことは、円滑なコミュニケーションにとって、とても貴重な行動になると考えられます。